「一ヶ月後『までに』2時間と4千円下さい」

 

 

「創って乞う」 でなく 「応えて創る」

 

役者の在り方と、これからの歩み方について。

八焔座のプロデュース面を担う

副座長・朝戸佑飛が、

チケットシステムに込めた想いを綴ります。


 八焔座のチケットシステムについて、多くのご質問、ご指摘やご声援を頂いています。

 その中で、「客を差別しているのではないか」というご意見があることが分かりました。

 予約する役者の窓口によって値段が違う。

つまり、お客様それぞれが芝居を観るために必要な費用が違う。

それはおかしいのではないか、というご意見です。


 先日、「cicada」出演者であり「Teamドラフト4位」主宰でもある松下さんと、稽古後の居酒屋でこんな話をした。

僕らには、価値があるのだ。売れる・売れないに関わらず、存在するだけで価値があるのだ

 進学や就職に悩む学生のみんなに、あるいは日々に追われるサラリーマンの方に、夢破れ道を違えてしまったかつての仲間たちに。

 こんな奴らもいるんだよ。不安もなにも、おい、見てみろよ! こんな馬鹿な奴らがいるんだって。今日も一日お疲れ様でしたを真摯に伝える、それだけで、確かな価値がきっとあるんだって。

 そんな、甘っちょろいけど、マジメな話。

 

 多くの役者がお客様と共有できていないことがある。それは正直で、純朴でかっこう悪い、「自分を支えてくれ」という意識だ。

 それは、「一か月後の公演『』、お金と時間をください」という姿勢に表れている。

 しかし、「一か月後の公演『までに』」、お金と時間を創ってください」、これこそが正解なのだと思う。

 

 これからの一か月で、僕のために2時間と4千円、つくってくれないだろうか。

 飲み2回程度の我慢を、してはくれないだろうか。

 

 この一過性の公演を知ってくれではなく、いまの自分を、公演までの自分を知って頂きたいという願いを、一通一通のご案内に込めていく。

 これにお返事がないならば、極論、その人は僕に、演劇でなくスキルでもなく、僕という人間に興味がないのだと、理解しなきゃいけないと思っている。

 押しつけかもしれない。「宣伝」であるという事実がある以上、綺麗事かもしれない。

 それでも、ひとつ突き抜けて、覚悟して、自分の価値と他者との関係性を信じて、まっすぐに在りたい。一個人の役者としては、そう願っています。

 

 もちろん、そのためには、相応の動きがなければならない。一回のご案内を送って、ハイどうしますかではなく、自分を伝えるための努力を、そしてその人を知るための努力をしなければならない。

 自分と他人に興味があることが大前提だ。

 一つの公演におとしていくお金の意味を、極論だが、「芝居を観るためのお金」でなく「役者を支えるためのお金」に転換して頂くにはどうすればいいか。「創って乞う」でなく「応えて創る」の関係性を構築するために、仕組みとして何ができるか。

 創って届けた一点でなく、創る過程と本番、そしてその先という線でこそ、僕らはお客様と共にありたい。

 

 これが、チケットシステムに反映させた想いです。

 役者がお客様と随時コミュニケーションするために。役者が他者に対して、「登録してあるメールアドレス」でなく、ちゃんと「対人間」としての眼差しを持つために。そして、お客様に、公演足を運ぶということの意味、あるいは運ばないということの意味を、未返信の暗黙にぼんやり滲ませるのではなく、しっかり考えて頂けるように。

 

 

 これは副座長としてでなく、出演するいち役者としてだが、あえて他の役者に先んじて、明確に言葉にしたい。

僕はお客様を差別する

 劇団窓口でも他の役者窓口でもなく、僕の窓口で来てくれる方が好きです。本公演までのイベントにもきてくれる方が好きです。グッズを買ってくれる方が好きです。毎度メッセージをくれる方が好きです。

 

 来れずとも、毎回お声がけくださる方のために、やっていきたい。

 

 

 夢を追う僕らが、売れるか売れないか分かんないけど他にやることないとか、何の勝負もなく気づけば30で後悔してますとか、悲しいじゃないか。ここで覚悟を決めるんだ。ここから始めるんだ。

 作品が面白いから金取れるとか、人を助けるとか、気負わなくていい。

「面白い作品をつくる」の手前で、自分という人間の価値にこそ、自ら誇りを持って欲しい。僕は僕を肯定する。僕はあなたを肯定する。

 この芝居には4.000円の価値があるかないかではなく、果たして自分という役者には、人間には、その価値があるのか否か。

 小劇場の役者たちに、作り手に問うていきたい。何様でもない僕が、あるいは嫌われることを承知で、投げかけたかった真価です。

 

 八焔座はそういう気持ちを持って走り出した。もちろん副座長として、座長・菊地の作品を世に届けたいという気持ちはある。こんなにも痛みの裏に愛があることを知らしめる世界はない。それを知ってほしい。けれど、それ以上に、この人たちこそと思う役者を集めたつもりだ。僕の全てを投げうってもいい。

 

 本当に自分のことを大切にしてくれるお客様をこそ見つめないといけないし、その人たちのために、「創って乞う」のでなく「応えて創る」を実践しないといけない。

 だからこそ、一か月後「に」ではなく、一か月後「までに」なのだと思う。

 すでにエンターテインメントは始まっている。ここに僕らがいる。八焔座という空間がここにある。

 

 その意味をより多くの人に、より深くお伝えしていきたい。

 そのうえで、迎え入れてくださるなら吉。突っぱねられても、やっぱり吉なのだ。まずは勝負の土台に乗るということ。

 お客を差別するのとは別にして、僕らはお客様に、ちゃんと差別されねばならない。選択されねばならない。淘汰されねばならない。むしろ、そのためのシステムだと思っている。

 

 

 どうかこの過酷なチケットシステムに臨んだ役者たちを、見守ってください。その決意は、ただ一公演に参加する気概とは話が異なります。彼らの熱意と誠意を、我々八焔座と共に、信じてみませんか。

 旗揚げ公演まで、一か月を切りました。1/22~25、「cicada」。結果は何よりも饒舌です。

 どうか、よろしくお願いいたします。

 

 

 副座長 朝戸佑飛